米国やドイツ、日本をはじめとする主要な研究国では、査読制度が巨大な負荷に耐えきれなくなっています。たとえば、チリにあるヨーロッパ南天天文台のマルチユニット分光器(MUSE)には、ひとシーズンで3000時間を超える研究提案が殺到します。しかし、その膨大な申請を処理するには時間も人手も圧倒的に不足しており、査読作業はますます逼迫しています。さらに、2020年以降のパンデミックによって研究活動の加速とともに、論文の量は爆発的に増え、多くの優れた研究もシステムの圧迫を受けて評価や公開が遅れる事例も増えてきました。この状況は、重要な発見の公表遅延や、誤った研究の拡散を招きかねず、科学の信用性に深刻な打撃となっています。専門家たちは、「いかにして効率的かつ公平な査読体制を構築できるか」、その解決策を模索する必要に迫られています。今こそ、徹底的なシステム改革が求められるといえるでしょう。
ところが、実は査読制度は20世紀中頃に、研究の品質を守るために導入され、長い間その有用性が評価されてきました。にもかかわらず、現代の査読には多くの問題点も浮かび上がっています。例えば、制度に根ざす偏見—所属大学の評判や出身国、あるいは個人的なつながりに基づく偏り—が、公平な評価を妨げるケースです。具体的には、知名度の低い新興大学の革新的な論文が、十分な認知を得られずに埋もれることもあります。一方で、多くの査読者が忙殺される中、見落としや誤りを見逃し、不適切な研究が誤って公表されてしまうことも少なくありません。さらに、COVID-19のパンデミック後に研究論文の数が爆発的に増加したことで、システムの亀裂はより一層深刻化し、信頼性の低下も危惧されています。こうした問題を解決するためには、制度の根本的な見直しと革新がどうしても必要不可欠なのです。
未来に向けて、私たちが採るべき道は一つです。それは、大胆で革新的なアプローチを導入すること。例えば、人工知能(AI)を査読の第一線に据えるのです。AIは、何千もの論文を瞬時にスクリーニングし、潜在的に有望な研究を抽出したり、人間だけでは見落としがちなエラーを指摘したりできるだけでなく、その結果、査読時間を大幅に短縮します。すでに、このような取り組みは一部の学術分野で試験導入され、一定の効果を上げつつあります。さらに、「オープン査読」も、透明性と信頼性を高める重要な手段です。例えば、査読コメントや評価基準を公開することで、研究の誠実さや徹底性を誰もが確認できる仕組みを作ります。こうした新しいシステムは、単なる効率化だけにはとどまりません。科学界全体の文化や評価の仕組みを根底から変える「革命」となる可能性も秘めているのです。国際的な査読シンポジウムや学会では、こうした最先端のアイデアについて、より迅速で公正かつインパクトのある査読制度の構築をめざして熱心な議論が交わされています。これらの取り組みを積極的に取り入れることで、私たちは従来の非効率なシステムを刷新し、世界中の科学者や研究者にとって信頼性とスピードを両立させた新時代を切り開くことができるのです。
Loading...